新連載小説 第三話

「TVに出てみない?」ホントに何でもない事のように妻はその言葉を口にした。
「なんで....」
妻の友人でTV局で仕事をしている人がいる。なんでもその人が、日曜の朝のバラエティ番組の企画に関わることになり、ちょっとしたコメンテーター的な役どころを、もし気が向けば彼に引き受けてほしいとのことである。一般人の枠で、適当な文化人に当ってみているところなんだけれど、知人の間で『気が利いたことを言う』と評判の男にも声をかけたということだった。
「なんで.... 一般人て言ったって、オレなんかホントにただのサラリーマンだぜ、それなのになんで....」
男にはわかっていた。『気が利いたことを言う』と評判だなんて、わかりきった言い訳に過ぎない。「要するにオレにTVの客寄せピエロをしろってことか。」
いくら自分では普通に”普通の人”として生活していても、時々地雷を踏んでしまうような感覚に襲われる。顔が無い男が『気が利いたこと』を言えるのは、相手が男と普通の人間関係を持った上でのことである。TVの中の男は、必然的に”顔が無い男”として認識され、”彼の発言”は”顔が無い彼の発言”となることは、あまりにも明らかなように思えた。
「そんなこと心配してたの?あなたらしくもない。」うまく言って断ってもらおうと話をしていた妻の返事は意外なものだった。
「世間ぐらい飽きっぽいものなんて無いんだから、珍しがられることなんて始めのうちだけよ。」
「....そうゆうものかなあ、じゃあ、もうちょっと考えてみるか。」
結局男はその話に前向きな返事をした。ああだこうだと考える前に、試してみるだけ試してみようと考えた末の決断だった。
いったん肯定的な返事をすると、急に気が楽になった。もうあとは出たとこ勝負。男は1年後の自分を想像しては、当たり前のように日曜の朝はTVに出て『結構気が利いたこと』を言っている姿を思い描くようにさえなった。































