新連載小説 第一話

男には顔が無かった。抽象的な意味で言うのではなく、物理的に人の首の上 にのっかっているはずの、まさに顔が欠落していたのである。
もちろん今まで男が過ごして来た人生は平凡なものではない。何しろ顔が無いのである。小さい頃はいつも友人たちの好奇心の的になった。いじめられることも幾度と言わずあった。引っ込み思案だった男が少し心を開くようになったのは、ちょうど思春期に差し掛かるころだった。
慣れたのである。自分と他人の違いについてはいやと言う程よく分かっていた。が、人からじろじろ眺められることに慣れた、やっと開き直ることが出来たのである。人は誰でも大小さまざまな特徴をもっている。自分のそれはちょっと特別なだけだと考えるようにした。
もともと体を動かすことが好きだった男は、中学、高校とサッカーのサークルで友達を作った。こんなエピソードがある。サッカーチームの監督が、いつもは中盤でプレーしている男の俊足に目をつけて、「おい、ちょっとオフェンスでやってみないか?」と声をかけたとき、「いや、前はちょっと.... だってヘディングでゴールがねらえませんから。」いつもは厳しい監督が珍しく笑った。男の存在はチームのムードメーカーとしても重要な役割を果たすようになり、友達の間でも信頼は厚くなった。
